Ansel Adams IN HIS ROOM
アンセル・アダムスが撮った写真、そして彼が過ごした生涯のすべては、カメラ・オブスキュラの体験から始まっている。当然のことだ、と受けとめるほかない。
カメラ・オブスキュラとは、レンズによって虚像を結ぶ写真機という装置の、基本的な性質である暗箱の部分を中心ととらえた、意味の広い、したがってかなりのところまで曖昧な、言葉だ。写真機はじつは箱なのだ。六十年ほど前の、たとえばアメリカの大衆向けの廉価な写真機は、ものの見事に箱のかたちをしている。その箱のいっぽうの壁にはレンズとシャッターがあり、反対側の壁にはフィルムが位置を取るし…
『Coyote』No.56 二〇一五年七月十五日
次の作品へ