読む、映画『おじいちゃんの里帰り』 強靱な精緻さをきわめた想像力によって夢物語として映し出される人生
久しぶりにいい映画を観た、と僕は書く。こう書くことが出来るのはうれしい。『パリ空港の人々』(93)以来ではないか。あの映画を観たのは、いったい何年前のことだったか。いい映画を観た、と書くためには、相当な時間の経過を必要とするらしい。いい映画はめったにない。
監督のヤセミン・サムデレリは、妹のネスリン・サムデレリと共同作業で脚本を完成させたという。この映画のための面白い素材は、ふたりが実際に体験した範囲内でも、ありすぎて困るほどに豊富にあったはずだ。素材に関しては心配なかった。
問題は、その素材を、いかに一…
『キネマ旬報』二〇一三年十二月下旬号