読む、映画『ベルリンファイル』 これが映画だ、という感銘のなかにいまの僕は浮かんでいる
ついさきほど見終わった。かなりのところまで呆然としているが、その理由は明確だ。きわめて映画的な体験をしたからだ。しかも、思いがけない作品で。これが映画だ、と僕はいま思っている。映画を見る、という体験の核心的な一例を、僕は見事に体験した。体験させられた、と言うべきか。
映画とは、演出と演技と撮影と、もうひとつ、脚本だ。脚本に沿って演出がなされ、演出によって演技が披露され、それを撮影が、あますところなく拾っていく。
撮影されたいくつもの断片は、脚本に沿って編集される。音楽がつけられ編集が完成すると、そこには一…
『キネマ旬報』二〇一三年八月下旬号