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評論・エッセイ

ギョウニンベン

 ギョウニンベンという日本語を突然思い出した。僕の日常とはおそらくなんの関係もなく、記憶の底からギョウニンベンが浮かび上がった。思い出すからには知っている。母親から教わった。僕が十歳くらいの頃か。もっと早く、七歳ほどの頃だったか。行人偏と書く。漢字には左右に別れるものが多い。左側にあるものの総称を偏と呼び、行人偏は「行」という文字が代表を務め、往、徒、復、徳など、たくさんある。
 同時に人偏という言葉も教えてもらった。左側にある「人」という部分のことだ。左側の狭い空間に書くのだから、「人」は縦長になる。幼い僕の日本語のなか…

初出:『言葉の人生』左右社 二〇二一年
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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