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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

悲惨な現実と幸せな空想と

 ドラえもんがドラ焼きを食べている様子を描いたコマを僕はいま見ている。かつてなにかの話のなかで、実際に使用されたひとコマだ。ドラえもんはいままさに口に入れようとしているドラ焼きを右手に持ち、左手にもうひとつ持っている。居間のすわりテーブルに出されたおやつの皿には、さらにふたつのドラ焼きがある。ある日のドラえもんのおやつは、好物のドラ焼きが四つだった。
 昔は客間と呼ばれた部屋で、すわりテーブルに座布団で向き合い、ドラえもんはドラ焼きを食べようとしている。ドラえもんはのび太という男の子の家に居候している、未来の世界の猫型ロボ…

初出:『サンデー毎日』二〇二〇年十二月二十日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」78「悲惨な現実から生まれた幸せな空想」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年