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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

省略しなければやってられない

 自宅から足早に歩いて三分のところに、私鉄の駅と合体したスーパーマーケットがある。買った商品を受け取ったり、その代金を支払ったりするカウンターは、レジと呼ばれている。僕がこの言葉を知ったのは二十代の初めだったろう。もっと前だったかもしれない。レジという日本語は、およそ六十年をへていまも現役であるだけではなく、ごく当然のことのように、完全な日本語になっている。そのレジにいる女性店員に、「レジ袋はいかがなさいますか」と言われた僕は、とっさにはその意味が理解出来なかった。
 レジにはレジ袋というものが用意してあり、かつては無料だ…

初出:『サンデー毎日』二〇二〇年十二月六日増大号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」76「省略の向こう側にあるもの」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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