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評論・エッセイ

アカンベーにレロレロバー

「エヘン」という言葉をいまだに一度も使っていない。講演会で壇上に立った僕が聴衆を見渡し、最初の言葉が軽く「エヘン」であるのは、理屈では十分にあり得る。子供の頃に盛んに読んだ漫画のなかに偉そうに描かれたチョビ髭に山高帽の人が、しきりにこう言っていた。エヘンのあとにオホンと続くのが定番だった。ドラえもんの漫画にエヘンという言葉が出てくるという。作者がエヘン・オホンの時代の人だからだ。
「コホン」という咳がいまとなっては愛らしい。他の人たちを十分に意識した遠慮がちな咳が、たとえば漫画のなかの音声では、コホンと書かれていた。いまの…

初出:『サンデー毎日』二〇二〇年十一月八日増大号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」72「アカンベーとレロレロバーの違い」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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