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評論・エッセイ

曇りガラスに必ずこう書いた

 小学校二、三年生の頃には、ウマシカという言いかたをすでに知っていた。ウマシカは馬と鹿であり、馬鹿のことだが、あまりにも端的な言葉は避けて、別な言いかたをしたほうがいい、と子供なりに配慮した結果のウマシカだ。身辺の大人たちから教わった記憶もある。友だちとふたりで歩いていたら、馬と鹿が連れ立って歩きよる、と言われたのを覚えているから。
 馬鹿はサンスクリット語のモハからきているという。無知な、という意味だそうだ。馬鹿は当て字だ。莫迦とも書く。これも当て字だろうか。馬鹿という当て字はじつに良い、と僕は判断している。当て字は多い…

初出:『サンデー毎日』二〇二〇年九月十三日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」64「曇りガラスがあれば必ず書いた」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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