VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

犬も歩けば棒に当たる

 ことわざは日本の長い歴史を生き抜いた知恵の結晶であるという。数多くの人生から抽出されたものであるからには、日本の社会はことわざのなかにこそある、と言っていい。
「人を見たら泥棒と思え」ということわざがある。すごいではないか。他人は信用するな、という知恵を日本語はこんなふうに表現する、などと書くのは、現在の人が都会のなかですることだ。かつての日本つまり農村では、他人への不信は根本精神であり、それは排他精神として日本を作った。「人を見たら泥棒と思え」という表現は単純で誰にでもわかる。しかも生活のなかでの具体性をしっかりつかん…

初出:『サンデー毎日』二〇二〇年八月三十日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」62「この社会が守り続ける知恵と教訓」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

このエントリーをはてなブックマークに追加