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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

受話器に飛びついたのは、いつだったか

 この連載を書き始めて気づいたのは、知ってはいるけれど自分では一度も使ったことのない言葉がじつにたくさんある、ということだった。
 知ったのは子供の頃だ。身辺にいた大人たちから学んだ。彼らはそのような言葉を使っていた。一九四〇年代そして一九五〇年代にかけての、僕がゼロ歳から二十歳にかけての期間だ。僕の二十代は一九六〇年代のぜんたいと重なる。仕事として自分の言葉を使う作業を始めたのが二十歳からだ。かつて大人たちから学んだ数多の言葉は、まったく使わなかった。古くさい、間に合わない、言いあらわせない、したがって使わなかった。自分…

初出:『サンデー毎日』二〇二〇年八月九日増大号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」60「もう、受話器に飛びつくことはない」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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