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評論・エッセイ

「こころ」について学習する

 夏目漱石の書いた長編小説に、『こころ』という題名のものがある。「なぜ漱石は心という漢字を使わなかったのか、意見を述べよ」という試験問題があったなら、それはたいそう良い問題だ、と僕は判断する。こういう問題を、論文形式と呼ぶのだろうか。試験問題では、意見を述べよ、と言っている。論文を書け、とは言っていない。意見を述べる文章を書けばそれは論文でしょう、という考えかたもある、としようか。こころ、とは、なにか。簡単に言うなら、精神作用を総合的にとらえ、なにからなにまで押し込んだ結果のものが、こころだ。昔は精神作用はすべて心臓が司る、と思われて…

初出:『サンデー毎日』二〇二〇年七月十九日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」57「『こころ』という言葉を学習する」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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