母親をめぐって話はつきなかった
「僕は母親似ですよ。そのことはたいそう良かったと思ってます」
と彼は言った。編集の現場を後進にゆずり、いまは管理職の男性だ。
「母親から受けた影響は大きいですからね」
会社は違うけれど、おなじような立場の男性が、こんなふうに補完した。かつて母親に言われたことがいまも生きている、という点で彼らの意見は一致した。
「お前という子供はいくら言っても覚えない。少しは反省しなさいよ。五、六年前までは、母親とおなじことを、上司たちに言われてましたから」
子供が母親から受ける影響は大…
初出:『サンデー毎日』二〇二〇年七月十二日増大号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」56「母親をめぐる話は尽きなかった」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年
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