空飛ぶ円盤の時代は過ぎ去ったか
日本語でいちばん好きな言葉は、空飛ぶ円盤、という言葉だ。僕がまだ子供だったある日のこと、突然に登場した言葉だった、と記憶している。
アダムスキーとかいう人がアメリカでUFOに関した本を出版し、それが日本語にも翻訳された。その本には、著者自らが撮影したという、空飛ぶ円盤としか言いようのない、子供の目にもこれはインチキではないかと思えるような、いくつもの写真がともなっていた。
かまどでご飯を炊くおかまを浅くして車輪をいくつかつけた、ぼやけた一連の写真だった。しかしそれらの写真には不思議な魅力があり、子供の僕は…
初出:『サンデー毎日』二〇二〇年六月二十八日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」54「言葉が生まれたときの新鮮さを思う」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年
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