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評論・エッセイ

頭に「かね」のつく言葉を探してみた

「地獄の沙汰もかね次第」という言いかたがある。わかりやすくするために、地獄の沙汰、というような誇張された表現が使ってある。この世のほとんどすべてのことはかねで解決出来る、という意味だ。日本はあらゆる物がかねで買えるはずの国だ。そこではかねがものをいう。
 頭にかねのつく言葉を国語辞典で探してみた。かねは金という漢字になっている。金入れ、金売り、金貸し、金食い虫、などから、金目、金儲け、金持ち、などへ、三十ほどだった。思いのほか少ない。
 しかし、かねのからんだあれやこれやは、俗世間のしがらみの典型ではないか。日…

初出:『サンデー毎日』二〇二〇年五月10・17日合併号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」48「〝ない〟ことをいかに表現するか」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年