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評論・エッセイ

なんだ、そんなことも知らないのか

「なんだ、そんなことも知らないのか。きみは教養のないやつだなあ」
 二十代の僕は、ひとまわりは年上の編集者から、何度かこう言われたことがある。言うほうとしては相手のぜんたいを見下しているのだから、自分よりかなり年下でなくてはいけない。それに僕は、ものを知らない戦後世代のはしりだから、知らないことにおいては人後に落ちない。教養があると自分では思っているその年上の編集者にとって、僕は格好の標的だった。
「夏目漱石の最初の小説がなにだったか、きみ、知ってるかい」
 と、おなじ編集者から酒席でいきなり訊かれ…

初出:『サンデー毎日』二〇二〇年三月二十二日増大号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」41「教養とは何か、いまだにわからない」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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