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評論・エッセイ

その日本語は原語を超えている

 僕よりいくつか上の読書家の男性が、あるときふと、次のように言った。
「翻訳で推理小説を読むときには、登場人物に日本の名前を自分でつけるんだよ。登場人物の一覧表が初めにあるだろう。あそこに鉛筆で書き込むのさ。一覧表がなければ、扉の裏の、なにも印刷されてないところに、登場順に名前と日本語名を列挙するんだ」
 この話にぼくは感銘を受けた。たとえば英語から日本語へ翻訳されても、固有名詞は片仮名書きされるだけで、そのままだ。人名はその最たるものだろう。スーザンを信子、レイチェルは綾子、クライドは祐介というふうに、人物た…

初出:『サンデー毎日』二〇二〇年一月十九日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」32「原語を超える日本語訳の妙」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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