外国人たちは日本語に接近している
東京・代々木駅の近く、平日の夕方、ジェイソン・ステイサムを少しだけ若くしたような、明らかにイギリスの男性がひとり、携帯電話で話をしながら僕とすれ違った。彼が言っていたことが僕にも聞こえた。
「そこまで言われちゃうと、もうやってらんないよね」
と、完璧な日本語で彼は言った。すでに五年は前のことだ。
いまから三年前の夏、町田で小田急線と横浜線を連絡している高さ二階の回廊を僕は歩いていた。やや肥り気味の、しかし堂々たる体躯の、くすんだ金髪に勇敢なミニ・スカート、そして布製の黒い大きな袋を肩にかけた北…
初出:『サンデー毎日』二〇一九年十二月二十九日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」30「外国人が日本語に接近している」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年
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