無邪気な直訳はホラーである
秋は日ごとに深まっていた。素晴らしい寿司店の白木のカウンターに向かい、右側に友人がいて、ふたりとも鉄火巻きを六個ずつ食べたか。さて、握り寿司にしようかというとき、「ヒラメは英語でなんと言うか知ってます」
と、友人が言った。
確かflatfishのはずだが、
「知らない」
と僕は答えた。
「フラット・アイズです」
と友人は答えた。平たい目だ。
「コハダは?」
「それも知らない」
「スモール・スキンです」
友…
初出:『サンデー毎日』二〇一九年十二月八日増大号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」27「無邪気な直訳はホラーである」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年
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