甘からの汁を肴にして
甘から、という言葉には意味がふたつある。ひとつは、菓子などの甘いものと酒の両方が好きな人のことだ。両刀遣い、と呼ばれている。もうひとつは、砂糖、醬油、塩、香辛料など、甘いのとからいのと両方がはっきり感じられる状態に調理したものだ。
僕の知人にこの甘からの典型を朝食に食べる人がいる。ソーセージにトマトやレタスのサラダのあと、外国製の薄い円形の塩味のクラッカーに、フランス製のブルーベリーのジャムを、専用の小さくて平たい匙で薄く塗りつける。紅茶を飲みながらこれを毎朝、三枚は食べて至福の時間を過ごすという。
この…
初出:『サンデー毎日』二〇一九年十一月十七日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」24「醬油と砂糖が作り出す日本の味」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年
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