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評論・エッセイ

お焼き加減はいかがなさいますか

 今日は肉を食べたい、と言う友人とステーキの店に入った。友人はサーロインステーキの二百グラム、僕はテンダーロインを注文して、「オヤキカゲンハイカガナサイマスカ」と、若い日本女性のウエイトレスに言われた。なんのことだか、とっさにはわからなかった僕が、いけないのだろうか。
 言葉の冒頭に「お」の字をつけて丁寧語にする、という習慣を僕はまったく持たない。「オヤキカゲン」という音声は初めて耳にする日本語だったが、「お」の字を取り払うと、焼き加減でしかない。
 よく焼いてください、という僕の言葉に対して、ウェルダンですね…

初出:『サンデー毎日』二〇一九年十一月十日増大号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」23「ごく普通のことに頭を悩ませる」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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