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評論・エッセイ

深い意味はない、しかし俗世間はよく見える

 一、つまり「いち」について広辞苑は「自然数の最初の数」と説明している。一に一を加えると二になる、二に一を加えると三になるというように、一を加えることによって出来ていく正の整数の、いちばん最初の数、としか言いようのない数が、一だ。
 この「一」のつく言葉が日本語には多い。「幾つかのなかの一つ」「同一」「最もすぐれた」など、いくつかの意味がある。読みかたも、「いち」「ひとつ」「ひと」「いっ」など、変化する。
 自然数の最初の数なのだから、なにか深い意味でもあるのかと思ったが、そんなものはないようだ。論理も脈絡もな…

初出:『サンデー毎日』二〇一九年十月二十日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」20「深い意味はないが俗世間が見える」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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