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評論・エッセイ

「インイチガイチ」の衝撃を受けとめる

 小学校の教室で先生が子供たちに言ったことのうち、いくつかはいまでも覚えている。教室で先生が言うことのなかには、子供にとっては忘れがたいものがあるのではないか。小学生の頃の僕はごくたまにしか学校へ行かなかった。たまに行く教室では、そこで学ぶすべてのことが、印象深かった、とも考えられる。
 三十代なかばの男の先生が、黒板に白いチョークで、新憲法発布、と書いたあの真面目そうな字は、忘れられない。新憲法の公布は一九四六年の十一月だ。僕が記憶しているのは梅雨の頃だから、次の年の六月ではなかったか。
 新憲法発布、と先生…

初出:『サンデー毎日』二〇一九年九月十五日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」15「『インイチガイチ』の衝撃」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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