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評論・エッセイ

彼らのその後の人生は

 真夏の平日、夕方のまだ明るい時間、魚の店に入った僕は、まず刺し身の盛り合わせを注文した。素晴らしい盛り合わせがやがて届いた。醬油の小皿に箸の先で山葵を溶かしていたとき、なんの脈絡もなくふと思ったのは、かつて多くの人々に受けとめられ歌われた歌謡曲のうち、題名にブルースのひと言がある歌の、主人公たちのその後の身の上についてだった。
 彼らは健在なのか。いまどこで、なにをしているのか。歌のなかの架空の人たちではあるけれど、気になった。刺し身の盛り合わせを食べていくつれづれに、かつて巷で聞いたブルース歌謡曲の数々を、僕は思い出し…

初出:『サンデー毎日』二〇一九年九月八日増大号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」14「ネオン街に流れていたあの曲」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年