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評論・エッセイ

そしてすべてを水に流しましょう

 八月はじめのいまから、少なくとも気持ちの上でもっとも遠いのは、暮れと正月の季節だろう。正月を充分に成立させるために、年の暮れ、という概念が作り出された、と僕は考える。十二月一日から大晦日の三十一日に向けて、どの年であっても確実に暮れていく。年末に向けてすべてが押し迫っていく実感は、日々に強まり深くなる。正月を成立させるための年末に関する言葉を、思いつくままに書きとめてみた。
 年末。歳末。暮れ。年の暮れ。歳末出血サービス大売り出し。仕事納め。年納め。年内になんとか。年内には間に合いませんので。押し迫る。晦日。大晦日。押し…

初出:『サンデー毎日』二〇一九年八月十一日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」11「そしてすべてがあらたまっていく」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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