VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

僕はきまり文句を使わない人なのか

 この連載をすでに七回分書いた。書きながらひとつ気づいたのは、知ってはいるけれど自分では使ったことのない言葉、というものが何度も登場したことだ。そのたびに、知ってはいるけれど自分では使ったことのない言葉だと、釈明のように書いてきた。
 いまふと思いついた一例をあげよう。「雀の涙」はどうか。僕はこの言葉を知っている。子供の頃に漫画や雑誌で読んで知ったか、身辺の大人たちが使っているのを聞いて知ったか。そしていまでも覚えているのだが、自分では使ったことがない。文字で書くのはこれが最初だ。意味を知らなかったら、「雀の涙」は、いった…

初出:『サンデー毎日』二〇一九年七月二十一日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」8「きまり文句を使わない人になった」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

このエントリーをはてなブックマークに追加