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評論・エッセイ

僕には読めなかった漢字

 読めなかったものを思い出す端から列挙してみる。漢字による日本語だ。
 所以。無理に読むならショショだ。これがユエンだと知ったのは四十代に入ってからだ。若干名。ワカボシナとは、なにか。中学三年のときまだ読めなかった。中学生ともなれば、従業員若干名募集中、といった文言を街のいたるところで見ていたはずだが。
 水馬。スイバ。スイマ。ミズウマ。どれも正しくない。アメンボと読むそうだ。ついさっきまで知らなかった。白米。まさか、と言われそうだが、子供とは言えない年齢に達しても、シロコメだった。ハクマイだと知ったときはショ…

初出:『サンデー毎日』二〇一九年七月七日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」6「ふと待ちかまえる言葉の落とし穴」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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