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評論・エッセイ

ブンブンでロカボにノスヒロ

 ひとつひとつの言葉が口から音声として出ていくときの感触を楽しむかのように、その人は片仮名言葉の日本語を、思いつくままにあげていった。
「ビル。テレビ。パン。スープ。サラダ。ベア。インフレ。プロ。レスカ」
 レスカとはレモンスカッシュのことだ。スカッシュの部分を原語により近く言うなら、スクオッシュとでもなるだろうか。
 このような言葉が生活のなかに登場してから経過した時間を振り返ると、そこにはそのときどきを生きていた自分がいる。過ぎ去った自分に当てはめるものとして、もっとも無難なのは、懐かしい、とい…

初出:『サンデー毎日』二〇一九年六月三十日号(「コトバのおかしみ・コトバのかなしみ」5「時間が経つほどに短くなっていく」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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