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評論・エッセイ

思い出は言葉をめぐって

 秋が深まりゆく日の午後、喫茶店で珈琲となった。僕のほかに男性と女性がひとりずつで、彼らふたりは中年のまっ盛りだ。深煎りの豆による珈琲が効いたのか、彼がしみじみと言った。
「五十年、六十年と時間がたつと、当時は普及し始めたばかりのカタカナ日本語がいまも現役だったりすると、懐かしさに似た気持ちを覚えますよ。たとえば、ミニスカート、という言葉です」
「その言葉が日常のなかに普及してから六十年にはなるわね」
「ミニスカートより短いのがマイクロミニで、大きくて長いのがマキシだ。タイト。フレア。ロング。バルー…

初出:『サンデー毎日』二〇一八年十二月三十日号(「時代に翻弄されるコトバたち」最終回「コトバをめぐる思い出は尽きることがない」)
底本:『言葉の人生』左右社 二〇二一年

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