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評論・エッセイ

プリムス・ヴァリアントはトレーラー・タンクからなにを学んだか

 ネクタイをしめ、パムキン・レッドのプリムス・ヴァリアントのセダンに乗ったあの男(デニス・ウィーバー)にとって、カリフォルニアの自宅までの自動車のひとり旅は、退屈であることは言うをまたないとして、なにひとつかわったことのない、ごく平凡なトリップ・バック・ホームであるはずだった。
 事実、途中までは、みごとに平凡だった。
 アメリカのあのような光景のなかを、あのような男が普通のセダンで走るのは、面白くもなんともないことであるにちがいない。律義なセンター・ピラーや三角窓にかこまれてただかなりの距離を移動するにすぎな…

初出:『キネマ旬報』一九七三年一月下旬号
底本:『10セントの意識革命』晶文社 二〇一五年改版(一九七三年初版)

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