旅の途中。美術館の屋上。上空一万メートル。簡易食堂。ふと知り合う人たちとのなにげない会話のなかの真実
ホノルルからサンフランシスコまで、僕は本を読んで過ごした。分厚いペーパーバックをちょうど半分まで、僕は夢中で読み続けた。僕の経験によると、四十冊に一冊ほどの割合で、僕を夢中にさせるペーパーバックがアメリカのブックストアにはある。このペーパーバックは、ホノルルのショッピング・センターのなかの書店で買った。
「本来ならゴールデン・ゲイト・ブリッジが見えるはずなのですけれど、今日は霧の底にかくれていて見えません」
アメリカ人のステュワデスが、おおまかないい雰囲気で、PAをとおして乗客たちに伝えた。軽い嘆きの声が機…
底本:『水平線のファイル・ボックス 読書編』光文社 一九九一年