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評論・エッセイ

小説を書く

 小説を書くためにまず最初に絶対に必要なのは、僕の場合、これは小説になる、と瞬間的に確信することの出来る、これ、というものだ。現在のただなかで外からそれが来る場合もあれば、僕の内部つまり記憶のなかから浮かび上がって来る場合もある。大別して以上のふたとおりだ。そしてどちらの場合も、完璧に思いがけず、それはやって来る。完璧に思いがけなくとは、なににも邪魔されることなく、なんら制約や制限を受けずに、ほぼ完全に自由な状態のなかで、それはあらわれるという意味だ。
 これは小説になる、これさえあれば小説を作ることが出来る、と僕が確信す…

初出:『図書』(「散歩して迷子になる」二〇〇八年四月号〜二〇一一年七月号に連載)岩波書店
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

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