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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

三つ目の壁

 そのときの僕はまだ大学生だった。しかし『マンハント』という雑誌にはすでに書いていた。ある日、僕は、『マンハント』の編集部を訪ねた。おそらく原稿を届けにいったのだろう。『マンハント』は久保書店という出版社が発行していた。会社の建物には見えなかったが、民家にも見えない不思議な建物で、玄関で靴を脱いで廊下に上がり、そこでスリッパを履くのだった。当時の早川書房もおなじスタイルで、入口にあるもっとも大きな調度は、靴やスリッパを入れておく棚だった。
 僕は編集部で一時間ほど過ごした。編集長の中田さんが出かけると言うので、僕もいっしょ…

初出:『図書』(「散歩して迷子になる」二〇〇八年四月号〜二〇一一年七月号に連載)岩波書店
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

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