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評論・エッセイ

神保町 2

 大学四年生たちの夏が始まる五月頃から、その四年生たちは就職活動を始めていた。一九六〇年代前半のことだが、当時すでに就職活動という言葉は使われていたと思う。大学の四年間で麻雀だけは充分にこなした学生たちの誰もが、俺は銀行、俺はマスコミ、俺は証券などと、就職先に関する希望を語り合っていた。そして彼らは、夏休みまでには、就職を希望する会社から、採用の内定を取りつけていた。
 そうではなかった学生たちは、夏休みにも就職活動を続けなければならなかった。いつもなら学生たちがたくさんいる構内は、ほとんど誰も歩いていなくて、ただ夏の陽ざ…

初出:『図書』(「散歩して迷子になる」二〇〇八年四月号〜二〇一一年七月号に連載)岩波書店
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

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