VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

神保町 1

 一九六一年のビリヤードの壁には、東京都内を走る都電の系統図が貼ってあった。ナイン・ボールの台が空く順番を待ちながら所在なくしていた大学生の僕は、その図を眺めてしばらく時間を過ごした。十五番系統という路線の都電に始発駅の高田馬場駅前から乗ると、大学の裏と言っていい位置にあった早稲田という停留所へいけることは、すでに知っていた。何度か乗ったこともあった。面影橋という停留所の次が早稲田で、この停留所には蕎麦屋や茶碗屋が軒をならべていた。この早稲田からさらに十五番系統の路線をたどると終点は茅場町というところであり、その途中で神保町を通ること…

初出:『図書』(「散歩して迷子になる」二〇〇八年四月号〜二〇一一年七月号に連載)岩波書店
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

このエントリーをはてなブックマークに追加