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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

美人と湯麵

 その道に歩道があったかどうか。あったような気がする。しかし、その道に歩道はなかった、としておいたほうが、当時の東京とは論理的に整合する。当時とは、ほぼ半世紀前のことで、道とは大学の敷地の南側のすぐ外にあった道だ。この道の大学から見て向こう側には、学生を相手とした主として小さな飲食店が軒をつらねていた。そのなかに一軒の中華の店があった。支那そば、炒飯、五目そば、五目炒め、にらレバー炒め、ワンタン、ワンタン麵、チャーシュー麵などを、学生たちに供していた。
 店内は小ぶりな箱のようだった。なんの愛想も飾り気もなく、テーブルとそ…

初出:『図書』(「散歩して迷子になる」二〇〇八年四月号〜二〇一一年七月号に連載)岩波書店
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

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