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評論・エッセイ

二音節の土曜日

 良く書けた一編の小説を読んだ僕は、深いさまざまな感銘や強いひとつの感動を、生まれて初めての体験として受けとめた。この感銘や感動は、いったいなになのか。この小説を書いた人については問題にしないことにするなら、僕の外部に残ったのは、表紙のない一冊のペイパーバックだけだった。
 すでに書いたとおり、ペイパーバックという性質の本は、何枚もの紙をページとしてその背中で膠づけしてひとつに綴じ、厚いとも薄いとも言えない感触のボール紙の表紙を貼りつけたものだ。どのページにも言葉が印刷してあり、その言葉は文章として最初の一語から最後の一語…

初出:『図書』(連載「散歩して迷子になる」題名:一九五五年二月二十三日、『地上より永遠に』)岩波書店 二〇〇八年七月号
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

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