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評論・エッセイ

世田谷の古書店

 まぎれもなくアメリカの物であることを越えて、アメリカそのものであるペイパーバックが、世田谷区のあちこちの古書店で買えるという事実は、子供の僕にはたいそう面白いことだった。とおりかかった古書店にふと入ってみると、何冊かのペイパーバックがほぼかならずあった。あるからみんな買う、ということが面白くて、買うことを僕は何度も繰り返した。一冊が五円から二十円だった。当時のものが何冊も、僕のペイパーバックの山のなかにある。裏表紙の右肩に、あるいは左肩に、店主が鉛筆で書きつけた10、20といった数字を、いまも見ることが出来る。
 買える…

初出:『図書』(連載「散歩して迷子になる」題名:読むに至るまでの助走路を歩く)岩波書店 二〇〇八年五月号
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

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