VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

ペイパーバック

 日本敗戦の翌年の春先から、岩国の自宅にアメリカのペイパーバック本が目立ち始めた。ふと気がつくと家のなかのあちこちに、ペイパーバックを積み上げた柱が何本もあった。占領アメリカ軍で仕事をしていた父親が、仕事の現場でいろんな人たちからもらったものを、自宅へ持って帰っていたからだ。人が読んだもの、人が捨てようとしていたもの、基地のいろんなライブラリーや施設が廃棄しようとしたものなど、もらえるものはすべてもらい受けて自宅に持ち帰っていた。自分で読むわけでもなく、とにかくそれは本だから捨ててはいけない、捨てるなら自分がもらう、という方針だったよ…

初出:『図書』(連載「散歩して迷子になる」題名:ペイパーバックの山を作る子供)岩波書店 二〇〇八年四月号
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

このエントリーをはてなブックマークに追加