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評論・エッセイ

空と無

 父親が英語、母親が日本語という、もっとも身近にあった言語の二重性は、東京から岩国へと移ったあと、それまでの幼児の段階から、いくつもの段階を急激に上昇することとなった。幼児は成長していったからだ。二重性は言語だけではなく、ある日を境にして、日本そのものが二重になった。戦前から続いていた日本という、日本のどこにでも存在していた日本に、ごく一時的ではあったにせよ、オキュパイド・ジャパン(占領下の日本)という性質の日本が、覆いかぶさることとなった。
 敗戦の次の日から、と言っていいほどの突然さで、戦後における父親の仕事はGHQ民…

初出:『図書』(「散歩して迷子になる」二〇〇八年四月号〜二〇一一年七月号に連載)岩波書店
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

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