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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

陽に焼けた子供

 アメリカ軍による日本の爆撃は熾烈さを増すいっぽうだった。どうすればいいか両親が相談した結果、山口県の岩国へ緊急に避難することになった。祖父の出身地が山口県の周防大島で、ハワイから帰ったのちに建てた家が岩国にあったからだ。岩国も場所によっては東京よりもはるかに、爆撃の標的だったのだが。
 当時の日本では人々の日常生活に国家はさまざまな制限を強制していて、普通の日常などほとんどなかった。東京から岩国まで汽車でいくのは長距離の旅行だ。一般人の長距離にわたる旅行は厳しく制限されていて、乗車券を買おうにもまず売ってはくれなかったは…

初出:『図書』(「散歩して迷子になる」二〇〇八年四月号〜二〇一一年七月号に連載)岩波書店
底本:『言葉を生きる』岩波書店 二〇一二年(初出を大幅に改稿・加筆)

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