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わたしの片岡義男 No.19片岡サポータ Tami「スケッチする彼」

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【片岡サポータ】Tamiさんは、1968年東京生まれ。ダンサー、イラストレーター、絵本作家を経てさらなる飛躍を求め、現在グラフィックデザインを若者に囲まれ勉強中。8年ほど前、神保町の古本屋の前を歩いていた時に、ペーパーバックの積まれた箱をじっと見つめていた片岡義男さんに遭遇。その偶然の出来事をきっかけに片岡さんの著作に注目。今現在も新刊が平積みされる状況に驚いている。

 片岡さんの書くものは「観察すること」が基本にあると思います。
余計な思いこみなしに客観的に対象を見つめて、それを出発点としてゴールへ向かっていく。とてもシンプルで美しいのです。暗く淀んだところがないのが特徴です。『ジャックはここで飲んでいる』の225ページにスケッチ・ブックを手にしている人がでてきます。彼はホテルの部屋で「この部屋はなになのか」と思い鞄からスケッチ・ブックと鉛筆を取り出し、部屋のぜんたいを、そしてディテールをスケッチしていきます。このページを読んだ時にこれは自分ではないか!とうれしくなりました。というのも、私は絵の仕事をしていた時の習慣でよくスケッチをするからです。私の場合はクロッキー・ブックにボールペンでのラフなスケッチです。

『ジャックはここで飲んでいる』表紙
『ジャックはここで飲んでいる』

 225ページの彼はスケッチ・ブックに鉛筆で部屋の中をスケッチした後、次に自分の腕時計を見てまだスケッチしていないことに気がついて、いろんなふうに鉛筆で描きます(時計はハミルトンのカーキーというシリーズのメカニカルと称する手巻き)。さらに今度は窓辺に立って外の景色を描いてから(厚みのほとんどないと言っていい、黒いナイロンの)ショルダー・バッグにスケッチ・ブックと鉛筆をその中に入れて、部屋を出ます。
 彼はその目に映るものをこだわりなく観察してスケッチし続けるわけです。そこまで読んで私は彼に負けたと思いました。私のスケッチ方法とは明らかに違う点は、彼が思いこみでスケッチしていないところでした。その集中力はストレートで余計なものがないから、その時間、彼は別の次元にいるのです。そんなことは書かれてはいないのですが、自分の腕時計を見て、まだ描いていないからスケッチをするという行動はできそうで出来ないことです。私はいつも自分が乗っている自転車をいつかスケッチしようと思いますがまだ実行には至ってないです。何か思いついたらすぐに行動する、ということも片岡さんの書かれた文章にはよくある特徴だと思います。ぐずぐずしてないところが爽快で気持ちが良い、そんなふうになりたいものです。
 何年か前に、私はこの225ページをノートに書き写し、この感想を書くために参考にしました。この小説のストーリーは覚えていません。でも片岡さんの著作のあるページをノートに書き写すことが楽しい。そんな片岡サポーターです。

ダンサー、イラストレーター、絵本作家 Tami

片岡サポータTamiさんがスケッチした片岡義男のイラスト

編集部より
イラストから片岡さんの雰囲気が伝わってくるのは、片岡さんと同じ「観察すること」が基本にあり、描かれたからであるように思います。素敵な文章とイラスト、ありがとうございました。
今回の一冊 電子版『彼らと愉快に過ごす 〜僕の好きな道具について〜』(2018年)

スケッチに欠かせないスケッチ・ブックと鉛筆。スケッチ以外にも作者が愛用する「モノ」たちをご紹介。

『彼らと愉快に過ごす 〜僕の好きな道具について〜』表紙

作者が愛用する「モノ」たちがズラリ108個並んでいる。

紙飛行機、ノート、英語の辞書、ティー・バック、
何の変哲もないコーヒー・カップと受皿など、
片岡義男という人の生き方が、
モノの使い方、所有の仕方を通じて明らかになる。

 

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2018年7月3日 00:00

わたしの片岡義男

不定期更新。作家、ライター、編集者……さまざまな立場から片岡作品への思いを語っていただきました。読んだことのある作品でも違った面が見えてくるかもしれません。