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片岡義男.com 全著作電子化計画

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お知らせ

小説『窓の外を見てください』より4作品公開!

毎週月曜日に、これまで片岡義男.comでは未公開だった小説作品を公開していきます。

(底本:『窓の外を見てください』2019年、講談社)

『笑ってはいるけれど』

「窓の外を見てください」第三回は、コーヒーの物語でもあります。『裸の彼女を西陽がかすめる』で、喫茶店を引き継ぐための修行に入った館山ルナは、日高と大先輩の作家夏木冬彦との対談でコーヒーを淹れる仕事を頼まれるのですが、この時、三人分を一度に淹れるために、ドリッパーを三つ使います。大きなドリッパーで一度に淹れるのではなく、一杯づつ淹れるのでもない、とても合理的で、しかもきちんと一杯づつ丁寧に淹れられる方法を、出張先でも行うというところに、ルナの腕の確かさと、師匠である現店主のコーヒーのプロフェッショナルである様子がうかがえる仕掛けになっているわけです。こういう描写を読むと、こちらもつい、きちんとハンドドリップでコーヒーを淹れたくなりますね。

こちらからお読みいただけます。

『エリカの花、アカシアの雨』

「窓の外を見てください」も四話目となり、いよいよ小説を書く物語として、日高が書く小説が具体的になってきました。今回、喫茶店で見た二人の人物を元に、二つの物語を想起する日高の思考は、そのまま片岡義男による小説講座のようで、とてもスリリングです。何より凄いのは、頭に描いた物語を、日高がどんな風にノートに書き付けたかまでが具体的に書かれていることです。頭の中のイメージは、それがどれだけ物語になっていても小説ではなく、それを小説にするのに必要な要素は抽出されノートに箇条書きにされます。それは小説の秘密のひとつでしょう。そして、その頭の中のイメージとノートの内容を、リアルに描写すると、それが小説になっているわけで、まるでマジックのようです。

こちらからお読みいただけます。

『ため息をつく幸せ』

「窓の外を見てください」第五回目は、作家日高祐介による短編小説『ため息をつく幸せ』です。作家を続けられるかどうかと言っていた彼は、ここにきて依頼された短編小説を書き上げています。しかもその物語は前回『エリカの花、アカシアの雨』で構想されたものとも違うものです。つまりこれは日高の成長を示す小説であり、また、片岡義男による現代の35歳が書いた小説だということです。そのことをハッキリさせるように、グリーン・デイが出てきたり、駅のベンチで携帯電話で話すシーンが出てきたりします。話の運びも、やや緩めです。それはあくまでも、この小説は日高祐介という人物が書いたものだということで、それは作中人物のセリフ同様なのです。しかもその主人公もまたフリーライターなのですからややこしいですね。

こちらからお読みいただけます。

『発想して組み立てる』

今回の『発想して組み立てる』で、長編小説「窓の外を見てください」は完結します。それぞれが独立した短編小説として成立していて、しかし連作のようでもあり、読み終えると、それは長編小説だということが分かります。最後に日高は長編小説を書き始めるのですが、そこで、この小説は終わっていて、当然、片岡義男はここで書き終えています。物語はウロボロスの蛇のように、冒頭へと戻り、ひとりの作家の誕生と、そのために物語を動かした女性たちの小説が再び始まる訳です。だから私たちは、いつでも好きな時に好きな時間の中に入り込むことができて、物語の中で遊べるのです。「窓の外を見てください」というタイトルは、物語内の時間の経過を示していますが、夏は次の年にもやってくるし、次の年にも終わる、その循環を意味しているのかもしれませんね。

こちらからお読みいただけます。

2021年2月15日 00:00 | 電子化計画

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