彼が愛した樹
メイン・ストリートに面したサンドイッチの店から出てきたぼくは、ごく軽い満腹の状態で、歩道の縁に立った。まっ青な空から、明るい陽ざしが、きらきらと降り注いだ。
目の前に、ダッジのピックアップ・トラックが一台、歩道の縁石に右の前輪を触れさせて、アングル・パーキングしていた。赤い、見るからに頑丈そうなピックアップだった。
見るともなしにそのピックアップ・トラックを見ていたぼくは、そのトラックのぜんたい的な雰囲気に、次第にひかれていった。赤いペイントはいたるところはげ落ち、ボディの全域にわたって、大小さまざま…
底本:『コーヒーもう一杯』角川文庫 1980年
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