アイキャッチ画像

アイダホ州のジャガイモ

LinkedIn にシェア
LINEで送る
Pocket

 アメリカの北西部、アイダホ州の南部をスネーク河が流れている。東から西へゆるやかなカーブを描いて流れていて、この河を中心にした南部アイダホの平原が、アイダホの特産的な農作物とて知られている、ジャガイモの産地だ。

 平原が見わたすかぎりジャガイモ畑になっていて、小型の飛行機が超低空飛行で葉を枯らす薬剤を空から散布していた。葉やツタを枯らせておいてから、機械での収穫がはじまる。

 収穫機が畑を掘りおこし、やさしくジャガイモをすくいあげてくる。土くれやツタが自動的により分けられ、ジャガイモは収穫機とならんで動いているトラックの荷台にコンベアーではこびあげられる。

 このアイダホ州のジャガイモ畑のなかの、小さな田舎町のショッピング・センターで、自動車で通りがかりのぼくは、しばらく休憩するためにぼうっとしていた。

 青いシボレーのピックアップ・トラックがやってきて、駐車場のぼくの車のちかくにとまった。はき古したブルージーンズにペコス・ブーツ・カウボーイふうな帽子にフランネルのシャツを着た、いかにも農場で歳月をつみかさねた働き者のような初老の男が、ぼくの車のカリフォルニアのプレートを見て、話しかけてきた。その男は、ジャガイモ畑で働いている男だった。

「生まれてからずっとジャガイモとつきあってるよ。一八三四年にこのアイダホ地方に人がはじめて入植してすぐあとに、おじいさんがここに住みついたのさ。三代にわたって、アメリカ二百年の歴史を、畑のうえから見てきたよ。スネーク河ぞいには、昔のオレゴン街道があるし。畑からとれたばかりのジャガイモを見たことがあるかい」

 ぜひ見たいとぼくが言うと彼はショッピング・センターに入っていき、やがてジャガイモをひとつ持って出てきた。入口の陽影(ひかげ)にコークマシーンがあり、彼はぼくに、

「コークを飲むかい」

と、大きな声できいてよこした。

 すさまじくよく冷えたのをふたつ、男は買った。ジーンズのマニー・ポケットから小銭を出したときの彼のなにげないしぐさが、なぜかふと悲しかった。

 アイダホでとれるジャガイモのひとつひとつに〈アイダホ産〉という刻印をする機械をアイダホでは昔からつくろうとしているという話を、彼はしてくれた。アイダホで一年にとれるジャガイモは重さにして四十億キロちかい。そしてアメリカ人はほんとうにジャガイモが好きだ。

 アメリカを二百年にわたって支えてきたジャガイモ生産の現場のすぐちかくには、開拓時代に幌馬車が進んだオレゴン街道があり、馬車の車輪がぽつんとひとつ、草のなかに転がっていたりする。街道とほぼおなじルートをインタステート・ハイウェイがのびている。それを西に向かって走っていたら、マウンテン・ホームという名の町があった。

底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年


1979年 『アップル・サイダーと彼女』 アイダホ州 アメリカ
2016年4月19日 05:30
サポータ募集中