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日本の醬油をタレに使って焼きあげたハンバーガーは、キッコバーガーと言います。

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 キッコバーガーという言葉を、つい最近、はじめて見た。ほほう、ついにやったかと、ちょっとした感銘のようなものを、ぼくはおぼえた。キッコバーガー。往年のリキシャマンやゲイシャガールの伝統をふまえて、いまはキッコバーガーなのだ。十二文字でできているKIKKOBURGERSという言葉を、ぼくはしみじみとながめた。

 はじめから順序だてて説明しよう。つい最近のある日、ぼくは、アメリカの雑誌の最近号を大量にかたわらにつみあげ、かたっぱしから見ていた。昔からある有名な婦人家庭雑誌のページをくっていたら、日本のキッコーマンの醬油の広告が目にとまった。キッコーマンは、以前からアメリカでも売っている。瓶のラベルに書いてあるとおり、自然醸造された万能のシーズニングとして、すでにかなり広く親しまれている。いちばんはじめの「キ」の音を強く発音して、キッコマンと言う。

 ぼくが見たキッコマンの広告は、ハンバーガーのパティをグリルのうえで焼きあげるとき、へたなタレを使うよりもキッコマンを刷毛で塗りつけながら焼いていくと、できあがったパティの味は格別で、いちどこれを体験するとほかのハンバーガーは食べられなくなりますよ、という広告だった。

 このキッコマンをタレに使って焼きあげたパティを、トマトやレタスといっしょにパンのあいだにはさんだハンバーガーが、キッコバーガーであるわけだ。焼くときにタレとして塗るだけではなく、グラウンド・ビーフ(牛のひき肉)にインスタント・ミンスド・アニヤンなどをまぜて練りあげるときにも、キッコマンをテーブル・スプーンに一杯、入れたりする。

 ようするに本体はごく普通のハンバーガーだが、シークレット・ソースとしてキッコマンを使ったところが、ミソなのだ。アメリカで売っているキッコマンは味が濃いからこんなふうにも使える。キッコマンは一六三〇(寛永七)年以来のものだ。しかし、ハンバーガー・パティに刷毛で塗りながら焼く人は、日本にはまだあまりいないのではないだろうか。

 キッコマンは、近い将来、かならずや英語と合体して、リキシャマンやゲイシャガールをこえる言葉になっていくはずだとぼくは予測していたのだが、その予測はいちおう当たった。しかし、キッコバーガーという言葉じたいは、考えつかなかった。平凡と言えば平凡だが、その平凡さゆえに穴だった、という気がする。キッコバーガーは、普遍的な言葉として広くいきわたっているわけではない。しかし、とにかく、いちおうは、ほほう、ついにやったか、なのだ。

 このキッコマンの広告をきっかけにして、日本製品がアメリカの雑誌広告のなかでどんなふうに広告されているのか、すこしだけ意識して見なおしてみたら、これがなかなか面白かった。

 キャノンの自動焦点カメラの広告が、あった。日本では、オートボーイ、の名で知られている二機種が、広告してある。

 オートボーイ、という言葉はもののみごとに日本製英語だから、アメリカではこの呼び名は使用されていない。このカメラの、アメリカでの呼び名は、シュア・ショットという。意味だけとってとりあえず日本語になおすと、「失敗なし」だろうか。オートボーイがシュア・ショットになれば、これはもう完全に英語だ、レンズがF1.9の40ミリになり、ボディにグリップがついてフィルムの装塡が自動となった、ひとまわりぜいたくな機種は、スーパーがついてスーパー・シュア・ショットとなっている。

 サントリーの樹氷の広告も、見つけた。パート・スターンが撮ったルドルフ・ヌレイエフのモノクローム写真を使い、ヌレイエフに「たいへんすぐれたウオツカ」と言わせている。

 瓶には、「樹氷」のロゴが印刷してあるが、このウオツカのアメリカでの呼び名は、サントリー・バンザイ・ウオツカとなっている。「日本なんてたいしたことないと思ってたのに、次々とすぐれたものが日本からやってくるじゃありませんか。このウオツカもそうですよ」、というボディ・コピーが、そえてある。

 さっきのキャノンのシュア・ショットのショットで思い出した。フジのフジカ・オート5の広告にも、ショットが基本形のシュートで使用されている。

 シュートは「射つ」という意味で使われることが多いが、「(写真を)撮る」という意味もある。ザ・スマートシューター35とアメリカでは呼ばれているこの自動焦点カメラの広告コピーは、シュートの「射つ」と「撮る」だけから発想したようなコピーで、面白かった。

「ご主人をシュートしようと思いながらも、面倒くさいのでやめたという体験はどなたにもあるものです」というコピーがまず大きくあり、ボディ・コピーのほうでも「愛する人をシュートする」とか「昼間の明るいところだけでシュートするとはかぎらない」あるいは「まわりにいる人をかたっぱしからシュートする」などと、シュートひとつで強引に押している。

 このような平凡な言葉遊びから発想した雑誌広告は、悪く言えば陳腐、良く言えば平凡なユーモアがあり、ひとつのパターンとして定着しているようだ。

 フジのザ・スマートシューター35の広告には、ご主人をシュートした結果のスナップ写真が絵柄としてそえてある。このスナップ・ショットのなかのご主人の表情のように、平凡ではあるが肯定的に容認された普通のユーモアの世界なのだろう。

 アメリカではパナソニックと呼んでいるナショナルの、WAYという小さなステレオ・カセット・プレーヤーの広告にも、言葉の遊びでまとめたものがあった。

 WAYには「たいへん」とか「とても」といった意味の強調語としての機能がある。ここに目をつけて、ウェイ・スモール、たいへん小さい、たいへんすすんでいる、たいへん使いやすい、などと平凡にやっている。

 アメリカの雑誌に広告してある日本製品には、カメラ、電気製品、そして車が、圧倒的に多いようだ。日本製の自動車ないしはオリジンは日本の自動車の広告も、こまかく読んでいくと面白い。日本の車だからといってべつに特別な扱いを広告のなかで受けているわけではない。カメラやステレオよりもはるかに日常的なものだから、まず第一に経済性が徹底してうたわれている。日本の小型車にとって、広告のうえで得なのはMPG(燃費)に関して有利な数字を表示できることのようだ。

 日本におけるディーゼル・トラックのナンバー・ワン・メーカーであるというイスズの、ディーゼル・エンジンを積んだピックアップ・トラックの広告が、日本の他社の車の広告をサカナにしていて、すこしだけ面白い。

 ダットサンの広告には、アメリカでは「ウィー・アー・ドリヴン」という決まり文句的なキャッチフレーズが用いられることが多く、トヨタの広告では「オ、ホワット・ア・フィーリング!」というのをよく見る。このふたつを、それぞれの名前をあげてサカナにし、コピーをつくっている広告があった。日本ではまずありえないような広告だ。しかしアメリカでは普通のことなのだ。

 ぼくが見た範囲内でいちばん感心したのは、ホンダのオートバイCM250カスタムの広告写真だ。男女がタンデムで走っているなんでもない写真だが、色の統一を中心にしてよくまとまっていて、きっと大幅に修整されているはずの路面と風景を背景に、ぱっと華やかにひきたつ色気がほどよくある。アメリカの雑誌広告でいちばんいいのは、こういうところだろう。

底本:『5Bの鉛筆で書いた』角川文庫 1985年

今日のリンク:HONDAのテレビCMといえば… こちらは必見。
「英史上最高の車のCM、TOP5をご紹介! 見事トップに輝いたのはホンダ!!」 (Autblog


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2016年6月7日 05:30
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