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評論・エッセイ

貝がら売りの泣きむし男

 昔、プロペラ機で飛行場に着陸すると、すぐに、機内に、ハワイの香りをいっぱいにはらんだ空気が流れこんできたものだった。スチュワデスのアナウンスメントの最後につける「アローハ」のひと言も、雰囲気や抑揚が、本物のハワイ語だった。だが、いまではもう、そうではない。
 タラップから飛行場に降りると、もうそこは、ほんとうにハワイだった。正面の山のほうに見える空港の建物にALOHAとあり、ひょろ高い椰子の樹が何本も立っていた。いまごろの季節の午後に着くと、吹く風は明らかに秋のものだった。機上からみた、トリプラー・メモリアル・ホスピタ…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『僕が書いたあの島』太田出版 1995年
『町からはじめて、旅へ』晶文社 1976年所収

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