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あの夏、僕はチャーリー・ブラウンと同じ服を着てすごした

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代田一丁目のチャーリー・ブラウン

 チャーリー・ブラウンがその上半身にほとんどいつも着ているのは、くすんだ黄色の半袖のポロ・シャツだ。僕が今年の一月一日から使っている、イギリスで出版された『ピーナッツ』の日めくりカレンダーでは、コマのなかすべてに色がついている。

 襟は先端が丸くなってはおらず、とがっていて、そして立っている。このポロ・シャツの裾に近いところに、チャールズ・シュルツの手描きで、黒いジグザグ模様が入っている。

 ジグザグの頂点は正面からだとふたつ見える。更におそらく両脇腹にもひとつずつ頂点がある。チャーリー・ブラウンの大きさに合わせて、ジグザグの幅や頂点の数を、ほぼ自動的な気楽さで、チャールズ・シュルツが案配したのだろう。

 僕はこのポロ・シャツが欲しい。黒いジグザグ模様の入った、くすんだ黄色の、襟の先端が普通にとがった、襟の立ったポロ・シャツだ。オフィシャル・ライセンスでいろんな商品が市販されているが、このポロ・シャツはいまだに見たことがない。

『ピーナッツ』の連載が始まったときからこのポロ・シャツが好きだった僕は、大学の一年生か二年生の夏、近所に住んでいた女性に作ってもらった。襟の先端のとがった、襟の立った白いポロ・シャツを下北沢で手に入れた僕は、洋裁の学校で学んでいるというその女性にチャーリー・ブラウンの絵を見せ、どのようなポロ・シャツを僕が求めているのか、説明した。正しく理解した彼女は引き受けてくれた。

 一週間ほどあと、ジグザグ模様のポロ・シャツは出来上がった。彼女が僕の自宅まで持って来てくれた。ポロ・シャツの大きさに合わせて、ジグザグの幅と頂点の数をきめ、位置は胸のあたりまで高めた、と彼女は怜悧に説明した。

 白地に鮮やかな赤い布が、ジグザグに縫いつけてあった。着てみて、と言われた僕は、それを着てみた。その頃の僕は世田谷の代田一丁目というところに住んでいた。ジグザグのポロ・シャツを着た僕は、代田一丁目のチャーリー・ブラウンだった。僕は大いに満足した。

ずっと探していたシャツを発見

 だから次の日、夏の土曜日、さっそくそのポロ・シャツを着て、代田一丁目から茶沢通りを歩いて三軒茶屋に向かった。太子堂二丁目にいまでもある横断歩道を渡りたかった僕は、信号が変わるのを待って歩道の縁に立ちどまった。

 道の向こう側で母親と手をつないで信号待ちをしていた五、六歳の女の子が、僕の着ているポロ・シャツに気づいた。彼女は腕を上げて僕のポロ・シャツをまっすぐに指さし、大声で笑った。

 僕はいっこうに平気だった。笑われてむしろ得意になり、それから三日、連続してそのポロ・シャツを着ていろんなところを歩いた。大学へもいった。そして洗濯した。赤いジグザグは盛大に色落ちした。白いはずのポロ・シャツは、そのぜんたいが妙にまだらなピンク色となった。これはこれで気に入った僕は、その夏ずっと、このポロ・シャツを着ていた。

 襟の先端が丸くなっていて、襟そのものがぺったりと平らになるポロ・シャツは、いくらでもある。しかし、先端のとがった、立った襟のポロ・シャツは、ありそうでなかなかない。それを僕はつい先日、L.L.Beanのサイトで見つけた。レイクウォッシュド・ポロといい、僕が探していたポロ・シャツにたいそう近い。ミネラル・グレーと称する淡い灰色を、Mのレギュラーで三着、注文した。

 ジグザグを色違いで三種類作る。ひとつはすでにきまっている。よく熟れた富有柿の色、つまりチャーリー・ブラウンのあのポロ・シャツの地の色だ。あとのふたつはまだきまっていない。色落ちしないよう気をつけなくてはいけない。別布をジグザグのかたちに縫いつけるのも、やめたい。ジグザグのかたちをきめなくてはいけない。ポロ・シャツのどの位置にジグザグを置くかは、重要な問題だ。

 もっとも大事なのは、たいそう気楽に手描きした線の集合によるジグザグというオリジナルを、大人用のポロ・シャツの胸に、どのようにして再現するかだ。夏の暑さが続いているうちにこのポロ・シャツを作りたい。僕はふたたびチャーリー・ブラウンになろうとしている。

『現代ビジネス』講談社 2017年7月23日


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2020年2月21日 11:40
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