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この海から向こう側の海まで

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 いまから六十年ほど前、ヨーロッパではドイツとの戦争にそして太平洋では日本を相手の戦争に向かいつつあった頃のアメリカで、ごく一般的な雑誌に掲載された広告のなかの、アメリカ国土を描いた絵が何点か、ここにある。これはまさに古典的なアメリカ国土だ。こちらの海から向こう側の輝ける海まで、カリフォルニアのレッド・ウッドの森からニューヨーク・アイランドまでという、あの国土だ。

 アメリカが価値を認める種類の合理性の上に構築されたアメリカ文化が、国土といういろんな種類の自然の上に載っている。一九四十年代に入ったばかりの頃のアメリカが持っていた、アメリカの価値観というものが、ものの見事に描き出されている様子は、半世紀をゆうに過ぎたいまでも、鑑賞に値する。

 一九一四年の夏に第一次世界大戦が勃発したとき、アメリカは中立を宣言した。ヨーロッパでの戦争という事態のなかで、中立を宣言したアメリカは、アメリカとして非常に珍しい。しかしその三年あとには、ドイツに対して宣戦を布告した。ワールド・パワーとしてアメリカの価値観が自分たちの国土の外へと広がっていき始めたのは、ここからだ。

 第二次世界大戦のあと、アメリカ文化は世界に向けて存分に拡大していった。拡大はいまも続いている。アメリカ文化という巨大な梃子を作用させた偉大なる支点は、冷戦とそのなかに囲い込まれた旧ソ連だった。世界に向けて拡大していくひとつの文化は、他のさまざまな文化を支配下に置いてしまう。支配の意図などどこにもなくても、そうなる。そして世界の多様な文化に対して、自分のほうの価値を、唯一の理想、そして絶対的価値として、強制することになる。

 こういうことに対してあちこちで起こってくる反発や批判、抵抗、攻撃など、自分たちの価値と対立するものなどなにひとつ想定されていず、想像すらされていなかった、古き佳き日々の国土が、矛盾そのもののような自分自身との戦いの場になるとは。ここから先、世界では何が起こっても不思議ではない。

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出典:『Free&Easy』2002年1月号


2018年1月8日 00:00