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アメリカが宇宙に見つけた敵

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 いまはもう名前も残っていないとおもうが、エース・ブックスというブランドのペーパーバック叢書が、かつてアメリカにあった。通俗路線の底辺に近いあたりで、ひところは出版点数も多かった。おもてから読んで一冊、ひっくり返して裏から読んでもう一冊という、二冊を合体させたエース・ダブルのシリーズがもっとも有名で、いちばん目についたのはサイエンス・フィクションだった。

 そのエースダブルのサイエンス・フィクションから、おおまかに言って一九六十年代をひとまたぎする何冊かを選び、その表紙絵を観察してみようと思う。一九六十年代の始まりは、日本は新安保条約、アメリカではケネディ大統領だ。南ヴェトナムでは民族解放戦線が結成された。キューバ危機、ケネディ暗殺、ニューヨークで黒人暴動、北爆開始、と六十年代は進んでいき、キング牧師暗殺、ワシントンで黒人の大行進、ニクソン大統領、カンボジア侵略と、混迷をきわめたまま七十年代に入った。

 共産主義は天敵だ、細菌やヴィールスとおなじく絶滅させてしまうにかぎる、という方針でアメリカはインドシナに介入、そこを戦場として敵と戦い始めた。科学や機械の物量で勝つという、第二次大戦の延長気分だった事実は、SFの表紙絵にも反映されている。宇宙における戦いはハードウエア戦争から始まった。しかし天敵になかなか勝てない。勝てないどころか、敵は不可解さの謎を深めていくばかりだ。SFの表紙にはこれも如実にあらわれた。奇怪さをきわめた機械じかけのハードウエア生命体とも言うべき敵が、いたるところで手ぐすね引いて待ちかまえているのが宇宙という戦場である、ということになった。アジアの不可解な敵に自分たちは負けるのではないか、という恐怖が頭のなかに住みつき始めると、宇宙の敵も不気味な軟体動物や永遠の亡霊のような存在へと、大きく変化していった。その様子がエース・ダブルの表紙絵にあらわれている。

 アジアの敵、つまり自分たちがかかえている強迫観念を、正確に分析して直視する作業は、いまもまだアメリカには出来ていない。世界のすべてを電子の記号に変換し、それをコンピューター・ネットワークのなかで支配することによって、自己の優位性を確保するという、ひとまずは勝ったと言っていい状態だが、倒すべきは太古の恐竜に似たものへと、いったん回帰してしまったようだ。これからのロシアや中国が、この恐竜に該当している。

出典:『Free&Easy』2000年12月号


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2017年12月15日 00:00
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