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キャンディ・ウエイファーに込められた

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 色とかたちとは味や香りでもある、と考えた次の瞬間、僕はこのキャンディのことを思い出した。アメリカの色とかたち、そして味と香りを、その一身に体現しているものの、ほかに匹敵するものが見つからないほどの好例が、じつはこのキャンディだ。

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 僕がこれを最初に食べたときから、ちょうど半世紀ほどの時間が経過している。最初に食べたときとまったくおなじ味と香りのまま、いまでもこのキャンディはアメリカのどこでも手に入る。東京でなら、四軒か五軒ほどの店で、売っている。僕の記憶が正しければ、売っている店の数は四、五軒にしろ、およそ三十年ほど前から、東京でもこのキャンディは継続して売られてきた。

 包装紙にうたってあるところによると、このキャンディはキャンディ・ウエイファーといい、味と色は各種取り合わせであり、ひとつのアメリカン・クラシックでもあるのだそうだ。アメリカン・クラシックという呼びかたに対して、僕はなんの異存もない。まさにこれはアメリカだ。

 ウエイファーとは、漢字で書くと薄片だ。直径が二十五ミリ、厚さは三ミリの、円盤状の薄片だ。オレンジ色、黄色、白、淡い茶色、あわいグリーン、黒に見える紫色、ピンクの、七色すなわち七味だ。これがランダムな取り合わせで四十枚か四十一枚、積み重ねて棒状になったところを、一枚の包装紙でくるっと包んである。

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 甘さはごく率直なもので、それほど強くはない。そして香りは、決定的に淡い。これはこのキャンディ・ウエイファーの特徴であると同時に、なにか夢を見ているような不思議な気持ちにさせる、基本的な質でもある。アメリカの菓子としては、香りはごく淡い。その淡さのなかに、アメリカが確実にある。そのアメリカは、現代のかなたに近代の名残を感じさせるほどに、時間の底が深い。近代からアメリカの時間のすべてが、ここにある。

出典:『Free&Easy』1999年12月号


『Free&Easy』 アメリカの色とかたち
2017年11月16日 00:00
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